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KADOKAWA 井上伸一郎に聞く -WEB発の新ジャンル 新文芸- カドナビ Special ArticlesKADOKAWA 井上伸一郎に聞く -WEB発の新ジャンル 新文芸- カドナビ Special Articles

2015 年10 月10 日(土)、WEB 発の小説・才能を集め、書籍化していく新たな小説レーベル「カドカワBOOKS」が創刊する。
同時にKADOKAWA では、このようなUGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)から生まれた小説群を「新文芸」と名付け、新たなジャンルとして展開させていくことを決定した。KADOKAWA の考える新文芸とはどのようなものなのか。担当役員である井上伸一郎に話を聞いた。

ネット発・新しく生まれてきた文芸の形

———そもそもこの「新文芸」とは、どのようなジャンルになるのでしょうか?

井上 我々の定義する「新文芸」とは、UGCと呼ばれる、ネット上で発表された作品を書籍・電子書籍化して出版する小説の総称であり、これが従来の一般文芸とは明確に異なる点です。いわゆるネット小説やボカロ小説、フリーゲームの小説化といったものがこのジャンルに含まれます。
これまで自分の小説を不特定多数の誰かに読んでもらうというのは、新人賞を受賞してデビューする、偶然その才能が編集者の目に留まる…など、実力や運を兼ね備えた一部の人々にだけ許される特権のようなものでした。
しかし現在は「小説家になろう」をはじめとして、さまざまな小説投稿サイトが存在しています。少なくとも、書き上げた小説を公の場に発表するところまでは、誰にでもできるようになったのです。

もちろんこれは、どちらかが優れていてどちらかが劣っているというものではありません。我々はこのジャンルに“新”文芸と名付けましたが、「ネット小説が新しくていままでの文芸は古い」と、新旧を比較するつもりはなく、「新しく生まれてきた文芸の形」という意味を込めて“新”という言葉を使っています。

ネット小説の大きな特徴は、やはりランキングで作品の順位がわかったり、閲覧数を確認することができたりと、いろんな物事が可視化されてオープンになっていることだと思います。投稿された作品には読者からの感想や指摘が入り、著者はそれに敏感に反応して修正を加え、場合によってはストーリーそのものを変更する。読者もまた著者のサポーターとして、一緒に作品を完成させていくような雰囲気がありますよね。つまり、著者と読者との距離がものすごく近いんです。

伝統的な新人賞を通して発掘できる才能があるのと同時に、ネット上でこそ磨かれる力や作品も確かに存在します。それを見つけ出してより多くの人に伝えられる一助になっていければと思っています。


1年、3年後には
書店にコーナーがあるのを目指して

———なぜ、いまネット小説をひとつのジャンルとして確立しようと思ったのですか?

井上 書店さんや、そこで本を買う読者の方の目線に立ってみたときに、必要だと感じたからです。というのも、現在こういったネット発の小説というのは、一般文芸の棚に並べられていたり、ライトノベルのコーナー、漫画の隣であったりと、書店さんによって置かれている場所がまちまちです。最近アニメ化されて大ヒット中の『オーバーロード』(小社刊)など、ネット発の小説はすでに大変な勢いを持っており、多くのファンが存在しています。しかし、なにかの作品をきっかけとしてネット小説に興味を持った人が、他のものを読んでみたいと思っても、書店さんでどこを探したらいいのかわからないというのが現状です。

このジャンルに「新文芸」という名前を与えることで、まずは書店の方々にそういったジャンルがあることを認識し、コーナーを作っていただけるようになればと思っています。そうすれば、ネット発の小説を探しているファンはもちろん、その存在をまったく知らなかった人たちにも興味を持ってもらえますよね。

いまでこそどの書店さんに行ってもたいていはライトノベルの棚が作られていますが、スニーカー文庫やファンタジア文庫が創刊された1980年代後半ごろには、同じようにジャンル名がなかったんです。「ファンタジー小説」と呼ばれたり、「ヤングアダルト」と呼ばれたり。それがいつの間にか、「ライトノベル」として統一されていった。1年後になるか3年後になるかわかりませんが、書店さんに当たり前のように「新文芸」のコーナーがあるというところを目指していきます。


“異世界召喚”“異世界転生もの”に次ぐ
テーマの台頭が楽しみ

———新文芸の見どころと、ターゲット読者層は?

井上 現時点で新文芸は、既存の「MFブックス」と「エンターブレインの新文芸」、そして10月10日(土)に創刊する新レーベル「カドカワBOOKS」から構成されています。このカドカワBOOKSからは、まずはかねてから「小説家になろう」で人気が高く書籍化が熱望されていた『グリモワール×リバース〜転生鬼神浪漫譚〜』を筆頭とした6作品を発売します。

ライトノベルが基本的にティーンエイジャーをターゲットとしているのに対して、新文芸のネット小説は30代男女、ボカロ小説やフリーゲーム発の小説は女子中高生がメインの読者層になると考えています。ネット小説に関しては、現在、“異世界召喚”“異世界転生”ものが主流。ライトノベルにも“異世界もの”はありますが、やはりこれから人生を構築していく10代に人気のある作品と、社会に出て酸いも甘いも経験した30〜40代の方に好まれるものでは、同じテーマでもちょっと味わいが違っています。

ネット小説というのは流行に敏感なところがあります。異世界転生もののブームがこのままスタンダードになるのか、今度はどんなテーマの小説が台頭してくるのか。いまからとても楽しみです。


独自の小説投稿サイトの構想も

———新文芸としての、今後の展望を教えてください

井上 実はKADOKAWA独自の小説投稿サイトの構想もあります。もちろんいままでどおり「小説家になろう」さんや「E★エブリスタ」さんといったサイトとは仲よくさせていただきながらも、こうして新文芸をジャンルとして確立させる以上は、自分たちでもそういった環境を用意しなければいけないと思っているんです。

これは角川歴彦(弊社会長)が昔から言っていることなのですが、「自分たちでケガをしながら試行錯誤を繰り返していかなければ、知識や経験といったものは身につかない」のです。読者や著者の方たちの意見を取り入れながらサイトをブラッシュアップしていって、そこからまたオリジナル作品が生まれてくればいいですね。

とにもかくにも、まだ動き始めたばかりの「新文芸」。その名のとおり、これからどんどん新しいこと、いままでになかった面白いことを実現していくつもりです。どうぞご期待ください。

取材・文=臺代裕夢

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