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鳥羽 亮『七人の手練』

横丁を守る、
七人のプロフェッショナル

【評】細谷正充

書籍データ
七人の手練
たそがれ横丁騒動記(一)
鳥羽 亮
角川文庫本体640円+税

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 我が家の書庫の鳥羽亮コーナーが、とんでもないことになっている。よくあるスチール製の本棚を使用しているのだが、その一面が作者の著書で埋まりそうなのだ。解説を書いた本は二冊所持していたりするので、必ずしも作者の著書数と合致していないが、約三百冊が並んでいる様は、まさに圧巻である。そしてそれは、旺盛な筆力だけではなく、作者の人気を証明しているのだ。読者が作品を求めるからこそ、結果として著書が増えていったのである。作者の新シリーズ第一弾である本書を手にすれば、そこまで読者に待望される理由が納得できるだろう。

 浅草田原町三丁目の横丁は、並んでいる店の主に年寄りが多いことから〝たそがれ横丁〟と呼ばれていた。その横丁で、手跡指南所を開いているのが、元御家人の福山泉八郎だ。歳は五十がらみ。丸顔で目が細く、野辺の地蔵を思わせる、おだやかそうな顔をしている。十七歳の娘のゆいと共に、平凡に生きている泉八郎だが、一朝事あらば容赦はしない。さまざまな得手を持つ仲間たちのリーダーとして、横丁に起こる事件や騒動を解決していたのだ。

 元岡っ引きで、今は飲み屋をしている梟の弥助。ちょっと得体の知れない古着屋の甚造。鳶の浅次郎。元掏摸のおえい。三十八文店(百均ショップのようなもの)を出している、一刀流の遣い手の阿久津。刀の研師で柔術の心得のある須藤又兵衛。泉八郎の仲間は多士済々だ。しかし、そんな七人を奔走させる騒動が勃発した。たそがれ横丁を乗っ取ろうとする何者かによって、あちこちの店が脅されていたのだ。さっそく動き始めた七人だが、瀬戸物屋の主が殺され、波紋が広がる。さらに、敵の正体を掴んだものの、横丁の住人の子供が攫われてしまう。互いを襲撃し合うような、激しい闘いを続けながら、七人は敵へと迫っていくのだった。

 一癖ある七人の男女が、横丁の守護神として、巨大な敵に立ち向かう。このシリーズの特色は、プロフェッショナル集団を主人公にしたところにあるといっていい。それぞれの持ち味を生かし、横丁を守り、敵を攻める。平穏な日常を脅かす者たちに立ち向かう、七人のプロフェッショナルの躍動と心意気が、大きな魅力となっているのだ。

 また、スピーディーな展開も見逃せない。横丁の騒動を知った七人は、すぐさま行動を起こし、敵の正体を掴む。しかし敵もさるもの。泉八郎たちの行動を阻害すべく、子供を攫う。さらに互いに襲撃し合うなど、とにかくアクティブなのだ。そのお蔭で、ページを繰る手が止まらない。物語そのものはストレートなのだが、次はどうなるという興味に惹かれて、先へ先へと読み進めてしまうのである。こうした小説の巧さは、ベテランならではのものといえよう。

 そして鳥羽作品とくれば、チャンバラだ。七人のリーダーである泉八郎は、神道無念流の遣い手でもあり、果敢に強敵と斬り結ぶ。剣道の有段者である作者が描く、チャンバラ・シーンは迫力満点だ。一例を挙げよう。最初に泉八郎が敵の牢人と斬り合う場面。まず気の攻防を続け、ほぼ同時に青眼から袈裟に斬り込み鍔迫り合いになると、後ろに跳んだ泉八郎が横薙ぎの一撃を与える。達意の文章によるチャンバラに、まるで眼前で見物しているかのような気持ちになってしまった。そんなチャンバラが、続々と活写されているのだから堪らない。相次ぐ剣戟の響きに、心が昂るのである。

 さて、泉八郎たちの決死の闘いにより、落ち着きを取り戻したたそがれ横丁。七人も、馴染みのでんがく屋「福多屋」で祝杯を挙げ、あらためて横丁の守護神たろうと決意する。だから期待しないではいられない。彼らのさらなる活躍を。本を閉じてまず覚えたのは、シリーズ第二弾はまだかという、渇望だったのである。

ほそや・まさみつ 書評家

「本の旅人」2015年12月号より転載
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