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日本再建イニシアティブ『「戦後保守」は終わったのか』

保守政治の右傾化がなぜこんなに進んだのか!?

【自評】中野晃一

書籍データ
「戦後保守」は終わったのか
自民党政治の危機
日本再建イニシアティブ
角川新書本体860円+税

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 二〇一五年は、戦後七〇周年であると同時に自民党結党六〇周年でもあります。人間で言えば還暦にあたるわけですが、貫禄や円熟味を感じさせるどころか、自民党の下での現在の保守政治が危機的なまでに右傾化していることが、本書を世に問う背景にあります。

 安倍晋三首相の率いる自民党は、ともすると極端な観念やイデオロギーに偏り、国民的な広い合意をねばりづよく導くことより、党派的かつセクト的な陣地に立て籠もろうとしているのではないでしょうか。潔く自らの非は非と認め、近隣諸国との歴史問題を乗り越え、ともに未来を築いていこうとする意欲が乏しく、また、将来を担う若い世代を犠牲にして、財政やエネルギー問題などの重大な課題への対処を先送りする刹那主義に陥っているのではないでしょうか。こうした疑念から、もともと戦後日本の「保守」はこうではなかったのではないか、という問題意識を持つに至りました。

 なかでも、違憲性が指摘される集団的自衛権の行使容認を一つの柱とする安全保障法制の整備をなりふり構わず強行し、日本を新たな「戦前」に引き込みかねないと市民社会の大きな反発を招いたことは、穏健で中道的な政策や政治手法によってかつて一時代を築いた「戦後保守」のあり方と大きく乖離したものであると確信させました。

 そこで本書では、大平正芳や田中角栄、そして彼らの流れを汲む宏池会や経世会の系譜の政治家たちが担ってきた「戦後保守」は終わったのか、なぜ、いかにして終わりを迎えたのか、その検証を試みました。

 東電福島原発事故の「民間事故調」報告書を出したことで知られるシンクタンク・日本再建イニシアティブ(船橋洋一理事長)の主宰で、私が座長を務める政治学者八名を結集した検証プロジェクトを立ち上げ、さまざまな立場の保守政界の重鎮・現役・若手、トップ官僚ら二十名(村山富市、福田康夫、河野洋平、野中広務、古賀誠、平沼赳夫、高村正彦、世耕弘成氏など)にヒアリングを行い、入手した証言をベースとして検証作業を進めました。

 次第に明らかになってきたのは、一九九〇年代以降「戦後保守」の弱体化を招いた構造条件の変化でした。

 それは、戦争体験世代の政治家が次々と引退し、富裕で特権的な環境で育った世襲議員を多く含む戦後世代へと代替わりしたこと、冷戦の終焉により階級対立が弛緩し、革新陣営が衰退、他方、肥大化した保守陣営が分裂・多党化し、総じて政治座標軸が右方向へとシフトしたこと、バブル経済が崩壊し財政赤字の累積に歯止めが利かなくなるなかで、利益誘導政治の限界が露呈し、その穴を埋めるかのように先鋭的な「真正保守」イデオロギー集団が自民党内外で相対的に影響力を強めたこと、小選挙区制および政党助成制度の導入を含む政治改革や首相官邸機能の強化などの行政改革によって、コンセンサスの形成よりもリーダーシップの発揮が強調されるようになったこと、アジアにおいても経済的な相互依存が強まる反面、中国の経済力と軍事力が増大し、またそのことと連動するかたちで韓国の外交戦略が変化したことと軌を一にして、対外的な強硬姿勢を政権基盤の強化に用いようとする政治手法が日本でも目立つようになり、それがさらにテレポリティックスやネット革命による世論の分極化傾向と相乗的な作用を起こしていることなどです。

 本書は、「戦後保守」の中道的な政治に一定の評価を与えながらも、同時にその限界をあぶり出すものであり、「戦後保守」を手放しで礼賛するものではありません。しかしながら、「戦後保守」を担ってきた政治勢力が痩せ細ってしまった結果、保守政治内部での幅の広さ、多様性が失われてしまったことは、いずれ訪れるポスト安倍時代の自民党政治の脆弱性を予感させるものであり、それはひいては日本政治全体にとっても大きな損失となりかねないでしょう。

 本書での論考が、政治の失われたバランスを回復するための条件を皆さんが考えるきっかけになれば幸いです。

なかの・こういち 上智大学国際教養学部教授

「本の旅人」2015年12月号より転載
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